"Librahack"共同声明に関する詳細


はじめに

"Librahack"共同声明は、多くの事実の積み重ねと当事者同士によるオープンな話し合いを経て作成されました。この詳細情報では、声明の意図をより細かく説明していきます。なお、この内容は、りぶらサポータークラブが中立的な視点でまとめ、それを当事者の皆様が追認する形をとっています。内容については許諾をいただいていますが、当事者そのものの発言ではありません。この点は誤解しないようにお願いします。表現上の責については、草案の制作者であり話し合いのコーディネーターを務めた、りぶらサポータークラブの岡崎図書館未来企画にあることをお断りしておきます。

 

共同声明の発表に至る流れ

 本件は、さまざまな状況や情報が絡み合い、大変複雑な状態となっていました。りぶらサポータークラブは、この状況を整理し、未来に向けた健全な流れを生み出すために、2010年12月18日にフォーラムを行いました。フォーラムの内容は別に公式記録としてまとめていますが、当事者である中川氏・図書館双方とも、早めの事態収拾を望んでいます。クラブとしては、基礎資料となる基調講演とパネルディスカッションをまとめ、取り急ぎWebで公開するとともに、参加者の皆様のフォローをいただきながら、事実に基づく論点の整理を先行させました。 そして、たたき台となる資料をもって、中川氏や図書館および市の皆様と話し合いを重ね、それぞれの真意の理解に基づく出来事の整理を進めました。最終的には岡崎市からの呼びかけのもと、中川氏と図書館の関係者の皆様が、りぶらサポータークラブ同席の上で話し合いの場を持ち、今回の共同声明に至りました。

 

出来事の範囲を確定する

 通称"Librahack"事件は、大きく分けて二つの出来事から構成されています。一つは中川氏と関わりのある閲覧障害です。そしてもう一つは、このことが話題になる一方で明らかになった、三菱電機インフォメーションシステムズによる個人情報の流出です。今回の話し合いにおいて、この二つは明確に区分されるべきものだと考えています。個人情報流出にふれざるを得ないところもありますが、メインとなるのは中川氏に関わる閲覧障害に関するものです。以下、出来事が起きた時系列に沿って、要点を押さえつつ合意内容を紹介してまいります。

 

被害届の提出と捜査への協力

 被害届は、被害があったという事実に基づいて提出されたものです。図書館が届け出を行ったことについては、当時の知識や状況から考えて、仕方のないものであったと考えています。記載内容は被害の事実のみであり、逮捕や処罰を求めるような内容はありませんでした。 三菱電機インフォメーションシステムズ(以下MDIS)の対応については、同じようなケースで同業者の適切な対応により、被害届を出さずに解決した事実があることから、明らかな問題があったといえます。なお、捜査協力における情報提供については、行政組織内の適切な手順を踏んで行われています。 その後、中川氏より「取り下げのお願い」がありましたが、これは被害届を提出したことを問題視しているわけではありません。その意図と対応については後で別に紹介します。

 

起訴猶予処分について

 これは司法による判断であり、岡崎市立中央図書館ならびに岡崎市は、このことについて意見を言う立場にはありません。中川氏は、その立場と理由を理解しています。

 

岡崎市立中央図書館の9月1日の公式発表について

 この発表は、真因が解明される以前の認識に基づいたものでした。これをWebサイトから消去したのは、報道によってその事実を認識したことと個人情報の漏えいが発覚しシステム更新の方針が変更になったからです。今回の共同声明には、正しい事実の認識に基づく見解を示すという意図があります。

 

MDISに対する行政処分について

 岡崎市はMDISに対して、1年6カ月という長期の指名停止処分を下すと同時に、次期システム導入までの無償保守という対応を引き出しました。一方で、条例違反に基づく損害賠償や刑事罰を求めるという選択肢もありましたが、その場合、裁判等に費やす時間と手間は膨大なものとなり、最終的な決定はさらに先延ばしになる上、実質的な賠償金額も非常に軽微なものとなって収束してしまう恐れがあります。それでは、"Librahack"事件の真因を生み出し、誤ったアドバイスにより中川氏を苦境に陥れ、なおかつ個人情報を流出させるという、重大な背信行為に見合う代償にはなりません。

 今回の個人情報の漏洩に対する処分は、民事上の和解になりますが、想定し得るもっとも厳しい内容となると同時に利用者に迷惑をかけないように取り組んだ結果です。

 

MDISの会見について

 2010年11月30日のMDISによる会見は、大変残念なものでした。システムに問題があったことは認めたものの、それは「仕様」と位置づけられており、閲覧障害の原因になったことは認めたものの、中川氏が逮捕勾留されたこととの因果関係は認めていません。こうした姿勢については、企業倫理という側面から再考を促したいと考えています。

 

被害届の取り下げを依頼した意図

 中川氏が被害届の取り下げを依頼したのは、届け出が行われたことに異議があるからではありません。この出来事が単純に「事件」として認知され、Web技術の発展にネガティブな影響を与えることを危惧したからです。そして、その影響を払拭する象徴的な出来事として「被害届の取り下げ」を考えたのです。

 

被害届の取り下げに対する回答と補足

 結果として、被害届の取り下げは行わないことになりました。これは、岡崎市立中央図書館ならびに岡崎市が、中川氏の懸念するWeb社会への影響について、どうなってもよいと考えているからではありません。また、その要因となっている「起訴猶予処分」という裁定が下されたからでもありません。

 岡崎市立中央図書館ならびに岡崎市は、さまざまなことを学んだ結果、中川氏の行為に悪意はなく、技術的にもまったく常識の範囲であったことを理解しています。そしてWeb社会の発展については、これを支援すべき立場にあり、その重要性を認識しています。

 

取り下げに込められた意図を汲む

 この共同声明は、中川氏が取り下げを通して実現したいと考えた課題に対して、行政が誠意を持って応えるために行うものです。また、再び同じことが起こらないよう、新たな図書館システムの仕様決定には、細心の注意が払われています。

 

被害届を取り下げない理由

 被害届の扱いには、きわめて慎重な判断を要します。同時にそれは、提出の必要があれば実施をためらってはならないものです。もし、今回これを取り下げることになると、次に何かあったときに「本当に出していいのか」と、提出をためらうことがあるかもしれません。

 もし、被害届の提出をためらった結果、市民生活に多大な悪影響が出るとすれば、これは大変なことです。中川氏は、その危うさを理解し、行政の判断を受け入れました。そもそも中川氏は「取り下げ」という形にこだわっておらず、この声明は実質的な要求に応えるものとなっています。

 

共同声明の発信について

 この共同声明は、相互の理解が深まったことを伝えるために、中川氏と図書館、そしてりぶらサポータークラブの三者が、Web上で同時に発表を行うという形をとっています。図書館サイトでは、異なる表現をしているところもありますが、原則としてこの共同声明を基底としたものであり、意図していることは同じですので、言い回しの違いにとらわれないでいただければ幸いです。 図書館サイトには、個人名や共同声明という表題、感覚的な言葉などがありません。

 これは、公的なサイトに掲載されることで、過剰な反応が生まれることを避けるためです。この出来事に強い関心を持っていらっしゃる方と、そうでない方では情報の受け取り方に大きな違いがあります。そうした温度差を考慮した、公の施設である図書館としての表現と理解しています。

 

今後の対応について

 りぶらサポータークラブとしては、今後も公式記録の整備を進め、継続的に事態の進展を見守っていきたいと考えています。

 また、この共同声明に至るまでには、多くの皆様のご助言やご助力をいただいております。一部の期待には十分にお応えできなかった点もあるかと思いますが、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

 最後に、今回の事件の直接の当事者同士は、今後も互いにコミュニケーションを深め、それぞれの立場を尊重しつつ、よりよいネット社会に向けて引き続き取り組むことについて、相互確認したことを報告し、この声明のとりまとめといたします。

 

2011年2月25日

りぶらサポータークラブ